里親へのインタビュー
Tさんご夫婦(夫:Sさん 40代 妻:Iさん 40代)
Mくん 2歳
※2024年9月現在の年齢
子どもを育てたい
Tさんご夫婦は当時1歳半のM君を迎えて、慣れない育児に奮闘しながらも愛情たっぷりに子育てをされています。夫のSさんは、当初里親になることに不安があったとお話しされていましたが、インタビューに同席してくれたM君のお世話や遊び相手をしながら笑顔がいっぱいでした。どのような思いで里親になったのか、お互いの強みや子育て観についてなどたっぷりお話しくださいました。
―(遊びながら迎えてくれたM君)人見知りしないですね。
- 妻:
- (笑) 今、幼稚園のプレに行ってるんですけど、そういうのもあってか、いろんな人と関わることが 苦手じゃなくなったように感じます。もちろん、これまでいろんな方と関わってきたっていうのもあると思うんですけど、幼稚園に行き始めてから更に落ち着いていますね。
―委託された時から成長を感じることはありましたか。
- 妻:
- やっぱり言葉でしょうか。家に来た時はほぼ喋れなくて、話せる言葉って「アンパンマン」ぐらいだったんですよ。特定の言葉だけは話せる感じでした。言葉の成長って、ある時を境に急に喋れるようになると聞いたことがあったのですが、2歳になったぐらいで急に言葉が多くなりました。 なので「小さいし、まだ言葉がわからないから」って話し掛けないのではなくて、大人同士がコミュニケーションを取るように自然に喋りかけていました。Mくんはまだ喋れなかったので、私の1人会話みたくなっていましたけど(笑) あと、絵本が好きだからよく読んでいたっていうのも、もしかしたら言葉を覚えることに繋がったのかなって思います。
- 夫:
- それこそ「おはよう」とか「おやすみ」の挨拶に関してはしっかり教えたよね。あとお返事も。だから小さい時から返事を「はい」って言えるようになっていて、言葉ではまだ喋れないけど、聞いたときに「はい」って意思表示はしてくれてましたね。でもやっぱり成長を1年くらい見ていると、今まで自分が話しかけてきた言葉と同じ言葉を喋り始めるので「これ俺の口癖だ…」みたいな。やっぱり気を付けていたつもりでしたけど…これからも気をつけたいですね(笑) 癖は無意識に出てしまうし、よく見て真似してるんだなって感じました。
―日常から様々なことを吸収していきますよね。
M君は、どのような経緯で迎えることになったのでしょうか。
- 妻:
- 私たちは子どもが欲しいとずっと思っていたんですけど、結婚して長い間子どもに恵まれなくて。どうしようかなって考えていました。35歳ぐらいの時、本当に子どもを授かるつもりならば、例えば治療するなどそろそろ動いていかないとダメだし、 治療するのか、しないのか、これからどう生きていくのかっていうことを2人で色々話し合いました。そこで、不妊治療というのは私たちが望むことなのかな?っていうのは、ありましたね。子どもを育てたいっていう気持ちは強かったんですよ。でも、それで不妊治療を始めて「ハッピーな結末になるのかな?そうじゃない時にどう向き合えるかな」とか、いろんなことを考えた時に、私たちはなかなか治療に積極的な気持ちにはならなかったんです。生むということにこだわらず「子どもを育てたいな」って気持ちが強かったんですよ。それで何か行動にしようと思って。
―そこから里親になるということはすぐ結びついたのでしょうか。
- 妻:
- 私は元々子どもが好きなのと、英語を使った仕事をしてたので、その 得意なところを使って、まずは子どもたちの何か助けになれることや、子どもと関われることはないかなって考えました。その時に、近所で中学生に学習ボランティアをしてるっていうところ見つけたので、 そこでまずはやってみよう思ったんです。そうしたら、家庭の経済状況などが色々と難しい子がこんなにもいるんだってことを知りました。その繋がりで子ども食堂のお手伝いなどもしましたね。この時代に、満足にご飯を食べられない子が居るんだなって…。今まで自分の周りでは接してこなかった状況だったので驚きつつ、何か解決できないかなって思いました。お腹いっぱいご飯を食べさせてあげるとか、勉強をちょっと見てあげるとか、お家でゆっくり話すとか、私たちにとっては普通と思ってたことが、難しくてできてない家庭がたくさんあるんだなってことを知って考えてしまいました。 ボランティアとしてしか関われないことにも、もどかしさは感じましたね。でも人の家庭にズカズカと入り込むこともできないし。今、目の前に 大変な状況の子どもたちが居るのに、助けることができなくて、ボランティアでの限界を感じて「どうしたらいいんだろう」って。
しばらく考えた結果「自分で育てればお腹いっぱい食べさせることが、 お話してあげることが、勉強もみてあげることができのでは?!」となり、 里親制度とか特別養子縁組とかを調べていきました。
でもね、これから夫が喋ると思いますが、夫は最初「うーん」って感じだったと思います(笑)
- 夫:
- そうですね(笑)私もやっぱり子どもは欲しかったので、 35歳を過ぎたぐらいで、 本当にどうしようって真剣に考えました。治療に進むのか、それともこのまま2人で暮らしていくのかっていうのを考えた時に、お互いにどう思ってるのかというのは、夫婦としてとても大事なことだと思うので、よく話し合って、妻の話を「そっか、そういうのもあるんだね」って受け止めました。ただ、実子ではない子を自分の子として育てられるかどうかっていうのが、正直ちょっと不安な気持ちもありました。今でこそ血の繋がりって何も気にならないし、そんなに気にすることじゃないのかなって思うんですけど、その時は想像ができなかったんですよね。里親っていうのも 全然知らなかったし、里子っていう概念も知らなかった。自分の中には全く意識してないところから、ポーンって突然入ってきた情報みたいな。だから、話を受けた時は「ちょっと待って」っていう感じで伝えました。ただ私も同じぐらいのタイミングで保護猫に関わるボランティア始めていたんですよ。それで、もちろん人と猫を一緒にする訳はないんですが、猫も血の繋がりなんてないのに、こうやって家族として迎え入れたらそれはもう「家族じゃないか」って思ったんですね。
だから里子を迎えても、これって「子どもを育てたい」という気持ちがあれば、血の繋がりなんて気にならないと思えて、心配はだんだん無くなっていきました。むしろ、楽しみに変わっていった感じですね。僕も子育てをしたいという気持ちと、社会的養護が必要な子どもの助けが何かできればという思いがあったので、社会に出て自分で生活ができるようにサポートしながら育てたいというか。自立の手伝いができれば、っていう気持ちがあったので、「じゃあ、もうこれはもう動こう」となりました。性格的にもそうなんですけど、とりあえずやってみようっていうタイプなので、何もしなかったら変わらないじゃんっていう気持ちですね。彼女もそういう性格だから「よし!じゃあ、とあえず児童相談所に行こう」ってなりました(笑)
里親になるためにどうしたらいいのかっていうことは、あらかじめ妻がほとんど調べてくれていたので、そこに乗っかる形で動き出しました。
―その期間はどのくらいだったのでしょうか?
- 夫:
- でも1年も悩んでないよね。
- 妻:
- うん。数ヶ月ぐらいだったかな?直接児童相談所に連絡をして、実際に行きました。 その後、登録に向けて研修が始まりましたね。
- 夫:
- そうだったね。スタートの頃はまだコロナ禍ではなかったから、研修も順調に進んでたんだよね。そのでも研修の後半あたりで中断になったり延期になったりで大変でしたけど、それでも完全にストップしたわけじゃなかったから順調だったのかな(笑)。
- 妻:
- なんか進んでいくたびに、里親になりたいって気持ちが強くなりました。
- 夫:
- 迷いって僕の場合は1個もなかったです。むしろ、 研修を受ければ受けるほど、どんどん、どんどん里親になりたいっていう気持ちの方が強くなった。
多分最初の不安って、里親がどういうものなのかが分からないことへの不安だったと思う。 それが研修などでどんどん、どんどん理解に繋がって不安が解消されていくから、気持ちが固まってたのかな。
―そこから登録を経てからはどのよう流れだったのでしょうか。
- 夫:
- 登録してからも、お互い仕事をしていました。ただ委託が始まったとして、育児休暇は取れるんですけど、「じゃあ明日からお願いします」って言える仕事ではなかったので、職場に予め相談して、迎え入れる準備はしていました。
- 妻:
- その他にも地域の里親会には参加するなどしていましたね。
- 夫:
- その後、M君を紹介してもらって交流が始まったのですが、それこそコロナ禍だったから窓越し面会だったんですよ。僕らは外でMくんは中にいて、職員さんと遊んでるところを外から見てるっていう…。 施設まで1時間半くらい掛けて行って、窓の外から様子を見て帰る。もどかしさもありましたけど、でもその道中すら楽しいって思えました。 着くまでのワクワクもそうだし、行く度に少しずつ成長していて、「立てるようになってる!」とか「遊べる玩具がちょっと変わったね」とか、そういうのを帰りの車内で話しながら、少しずつM君が自分たちのところにやってくるという覚悟が持てました。
- 妻:
- 2人で行くっていうこときっと多いと思うんですけど、平日はお父さんが忙しくて、お母さんだけが行くっていうのがきっと多いと思うんですけど、 やっぱり言葉で伝えるより一緒にちゃんとその様子を見て話をするっていうのがすごくいいなと私は思ったので、できるだけ2人揃って行くようにしました。
―大変だったこはありますか。
- 妻:
- 大変、大変。全部大変。
いや、2歳は大変って聞いてましたけど、本当だなっていう(笑)
色んなことを自分でやりたいんだけど、できなくて泣いたり、本当は食べたいものを「食べない」って言ってみたりと。逆のことばっかり言ってます(笑)
- 夫:
- やっぱり大変なことも多くて、僕は翌日仕事で早く起きなくちゃいけなかったりするのですが、彼女が家にいてくれるので、夜泣きが 長く続いたりすると「2階で寝たら?」って言ってくれるんですよね。
- 妻:
- 2人とも疲れ果てないようにって工夫はしていて(笑)2人とも疲れ果てちゃうと、ちょっとしたことに対して2人ともイラッとしちゃうだろうし、1人はフルパワーの人間がいた方がいいと思うので、どっちかがそうなれるようにっていうのは考えてはいますね。
―物理的にも気持ち的にも大事ですよね。
- 夫:
- 逆に自分が休みの日なんかは、彼女に2階でゆっくり寝てもらって、少しでもお互い育児がしやすい環境っていうのをバランスと取りながら作るようにしています。
でも、家でM君を見てくれている妻の方が絶対大変だなと思いました。自分は仕事で外に出られるけど、家の中でずっとM君を気に掛けてくれる訳ですからね。
大人と喋るってきちんと会話になるし、感情を剥き出しにされることもないじゃないですか。でも相手が何を考えてるのか分からない状態で、言葉も通じない。それでも相手の気持ちを汲もうとする…。やっぱり外に出て自分のことだけ考えればいい状況と違いが大きすぎて。だからできる限りのことはしなきゃなって思います。
- 妻:
- すごいね(笑)
- 夫:
- したいことがあれば、もう朝活ですね。M君は7時に起きるので、それよりも前に、例えば5時からサイクリングとか、ゴルフの打ちっぱなしに行って、7時までに帰ってくる(笑)
それこそ自分が休みの日じゃないと彼女は休めないじゃないですか。だから、僕が休みの日は僕が見なきゃいけないですか。彼女に自分の時間を確保してもらうためには、休みの日は僕がM君といる。夫婦のバランスを自分の中でどうやって取っていくかっていうのはちょっと考えなきゃいけなとは思います。 ね?
- 妻:
- そうです、それでOKです(笑)あんまり締め上げるのもちょっとね。
- 夫:
- うん…はい。でもありがたいことに、飲みに行くこともゴルフに行くことも「なんで行くの!?」って顔は一切されないです (笑)
―M君との生活が始まり、驚いたことなどありましたか?
- 妻:
- 気分の表現がいろいろあるし、盛り上がったり盛り下がったりするので、「子どもってこんな感じなんだ」っていうのは感じました。いきなり歌ったり踊り始めたりとか面白いなって (笑)
- 夫:
- 楽しい驚きだよね(笑)
- 妻:
- 普通の1歳の子がどんな子なのかも知らなかったので新鮮でしたし、逆に多くを求めすぎてしまった事があって。今は反省しているんですけど、家に来たばかりの頃に「片づけなさい」って伝えてしまっていて。先輩里親さんに話をしたら「1歳なのにまだ片づけできないでしょ」って言われて「そうか」と思いました。
- 夫:
- 厳しいのは厳しかったんですけど、返事やお礼も教えていて。僕は正直、いずれ言えるようになれば良いと思ってたんですけど、彼女は根気強く教えてたんですよね。今思えば、あの頃にしっかり伝えてくれていたから、M君は返事をしっかりできるので、それは良かったのかなと思います。
- 妻:
- やっぱり個性もあるから、同じ2歳でも子どもによって違うだろうし、平均と比べて一喜一憂するのは意味がないと思うんですよね。
- 夫:
- だから、これでいいのかなっていうのは思いましたね。でも、やっぱり夫婦2人で生活している期間が長かったから、そこに子どもの存在が入ってきて、お互い今まで見たことない一面を見る機会が増えたっていうのはやっぱりありますね。
- 妻:
- 私は、すごくよく面倒見る人だなって感じました。
子どもにだけじゃなくて、こちらの大変さも理解してサポートしてくれる。さっき夫が話していた「自分は言葉の分かる人に接する訳だから、こちらの方が大変」って言ってくれると、なんか報われますよね。それにすごい支えてくれる。 子育てをしてる私を支えてくれるっていう面は、子育てをしてみて初めて知りました。
- 夫:
- 子どもに対して接してるその接し方って、自分が小さい頃に父親にしてもらった 仕方なのかなと感じます。自分がされてすごく嬉しかったことをM君に対して、してあげてるっていうのはありますね。
―子育てをされる上で、心がけていることはありますか。
- 妻:
- 自分たちの考え押し付けたり線路を敷くのは止めようねって、お互い思っていています。彼自身が選択できる 力を身につけるっていうのが、私たちの目標というか、そうであってほしいってところなので「こうした方がいいよ」とかは言わないようにしたいなと。例えばその日着る洋服もそうですけど、選ぶ力とか自分で考える力っていうのを身につけてほしいよねって話はしていますね。
―ありがとうございます。
お二人が細やかに連携して子育てをされていると感じるのですが、互いの強みはどんな点だと思いますか?
- 妻:
- 夫は見る力がすごいあると思っていて、感情的にならずに冷静に物事を判断できると思います。そういうところが強みだと感じますし、私にはないものですね。
- 夫:
- 彼女は人の気持ちを理解して、その人の気持ちに立った上で物事を伝える力にすごく長けてると思っています。 どうしても自分が育ってきた環境から判断して「こうした方がいいんだろう」っていう思いがちですが、そういう基準だけじゃなく、相手の気持ちや考えを引き出すことができるというか。多分それって会話力とか調整力なんですけど、そういうのができる人なんだろうなって思います。
僕はそこが苦手だなっていう意識はあって、そういうところをお互い上手く補えているのかな。
―登録される前のご自身に言葉をかけるとしたら、何と伝えますか?
- 妻:
- やってみたいって思うんだったらやってみた方がいいよって伝えたいです。気になる気持ちは大切にすべきで、やらずに何年後かに後悔するのは残念なことかなって思うので、チャンスがあるんだったら、積極的に前を向いて動いた方がいいよって声かけをしたいな。
- 夫:
- とりあえずやってみたら、かな(笑)
―ありがとうございます。
最後に里親登録を検討されている方にメッセージをお願いいたします。
- 妻:
- 子育ては責任もありますけど、気になっているなら先輩里親さんの話を聞くとか、入門講座などで児相さんのお話聞いてみるとか勉強会に行くとか、そういうことであれば、できると思うので、興味や関心がある方はぜひ前に踏み出して、行動に起こしてみてください。
- 夫:
- 悩んでたらもったいないし、その間もずっと時間は流れていく。そう考えると早いうちに行動して、方向転換はいつでもできるから、ぜひ一歩進んでみてください。
-

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