埼玉さとおやこども広場スマホロゴ

埼玉さとおやこども広場白

養育里親のおはなし

養育里親のおはなし
【養子縁組里親】
Aさんご夫婦

いつも同じ大人がずっと一緒に

当時1歳10か月だったKさんは社会人に、3歳だったRさんは現在高校生。2人のこどもを育て、ベテラン里親となったAさんご夫婦。こどもを迎えたことで「見えている景色が違う」とMさんは話します。これまでの子育てとご夫婦での取り組みについて伺いました。

プロフィール

Aさんご夫婦(夫:Hさん 妻:Mさん) … 自営業、共に50代。
1993年、埼玉県の養子縁組・養育里親に登録。現在、社会人のKさんと高校生のRさんと一緒に暮らしている。
※2022年3月現在

里親登録のきっかけを教えていただけますか?

Mさん:
結婚して、子どもって普通にできるものだと思っていたんですけどなかなかできなくて、不妊治療もしましたがしっくりきませんでした。そんな時、たまたまアメリカ人の里親さんがアジアの里子を迎えるというドキュメント番組を観て素敵だなと思って、そこから里親の説明会に行きました。市の広報に里親を募集している記事が載っていて、問い合わせてみたら説明会をやっているとのことで、「じゃあ聞いてみようかな」って最初は結構軽い気持ちでした。
Hさん:
私の気持ちも同じで、「いいんじゃない」って言うぐらいの感じでした。

実際に里親登録を経て、委託があるまではどのような流れでしたか?

Mさん:
里親登録した頃にお店を開業したんです。それから1年経った時に最初の委託の話がありました。それまで私もお店をフルで手伝っていたのですが、1歳半の男の子を紹介していただいて、交流を始めるために私は養育に専念しました。主人は休みの日に面会に行くみたいな感じで。
その4ヵ月後に長期委託になりました。委託の話があるまで1年半から2年ぐらいしかなかったので、早かった方だと思います。
この子が中1になった時、2人目の委託の話があり、2歳半の女の子との交流がスタートして3歳から長期委託となりました。
Hさん:
仕事があり交流時期からどうしても妻より接する時間は少なくて、息子は当時一緒に住んでいたおじいちゃんっ子でもあったから、それはちょっと寂しかったですね。どうしても関われる時間は少なかったですが、そこは妻を信頼し協力してスタートしました。

最初から養子縁組の希望だったのでしょうか?

Mさん:
養育でも縁組でもどちらでもっていう感じで、こだわりはありませんでした。期間も性別も、何も条件なしでお願いしていました。息子は最初長期委託から始まって、6歳になったときに実親家庭の状況が変わったのか「特養(特別養子縁組)にしませんか?」と児相から話があって。それで本人のためならいんじゃないかって、手続きに入りました。
高校生の娘は今でも養育のままです。

お店をオープンして1年ほどでの委託スタート。
当時の生活リズムや心掛けていたことを教えていただけますか?

Mさん:
当時はお店と家は別々だったので、毎日可能な限り夕方に息子と一緒にお店に行って、パパとお話したりおやつ食べたり遊んだり、とにかく顔を合せるようにしていました。夏は裏庭にたらい出して、水遊びをしたりして。夜は子どもが先に寝ちゃうので、パパと会えない。朝もパパが行っちゃってから起きてくるので、毎日毎日そういう形で一緒に居る時間を作るようにしていました。ママじゃできない役割もあるし、パパの力で遊んであげることも必要なので、パパは仕事の合間に大変だったと思いますけどね。
持ってきた玩具で遊んでいるだけのときもありますし、それでも一緒の空間に居ることでパパの仕事をしている姿を見ることができるし、パパも子どもの様子を見れますしね。
Hさん:
大変さはなく「子育てをさせてもらいたい」と思って、特別に何かするのではなくて、自分たちの生活の中で関わっていくのを心掛けるようにしていました。
だから子どもが幼い時は、一緒に積み木とかで遊んだりもしたけど、その他も何となく近くにいる、一緒に過ごすというのは心掛けました。

2人目のお子さんの時はどうでしたか?

Mさん:
娘を迎えた時はお店と自宅は一緒になっていました。扉を開ければすぐそこに居るみたいな環境です。でもなかなかパパに慣れない娘は、扉を開けてパパの顔見ただけで「フンッ」って(笑) 。
Hさん:
それでも仕事場と自宅が一緒だったのは良かったです。これで日中も姿が見えないと、慣れるまでにもっと時間が掛ったでしょうから。
Mさん:
パパが家にいてくれるっていうのはありがたかったです。娘が小学校上がる時に私も仕事を始めたので、学校から帰ってくるときにパパがいつも家にいてくれるっていうのは娘にとって心強かったろうなと思うし、私も安心でした。

ご夫婦で連携して養育されていた様子が伺えます。
その後、2人のお子さんの子育てについて教えていただけますか?

Mさん:
息子はのんびりしていて情緒が豊かです。学習面に課題はありましたが、人を思いやる優しさがあり、友達とも仲良くできていたので、「生きてく力は大丈夫かな」、って思いました。でも、高校卒業後進学した専門学校が卒業を目前にしてつぶれしまって…。それから就職するまでしばらく家にいました。不健康なわけじゃないんだけど、家から出ませんでしたね。

志していたものが突然に切れてしまったのですね。

Mさん:
仕事の求人はたくさんあるし、「専門学校に行ってたんだから大丈夫」って伝えても、「ダメだったらどうしよう」と考えてしまうみたいで、全然響かず、自立させる大変さに直面しました。それで、自分の家のお店が閉まった後に片付けなどの仕事をバイトみたいな感じで始めて、パパとも色々喋ったりして、それでずいぶん変わったかなって思いました。

その後どうされたのでしょうか?

Mさん:
それからしばらくしてコンパスナビ※にお願いをしました。家族以外の大人としゃべる機会がないので、とりあえず来て話をしてもらい、最終的には就職したんです。仕事が決まったら真面目だから行くんですよ。働き始めて丸2年。もう数年経てば少し視野が広がって、「責任はあるけどこの方がやりがいがあるな」、とか、そういう気持ちを持ちながら、本当の自立を目指せれば良いなって思っています。ちゃんとお金を入れてくれるし、自分の役割をやってくれるのでとても頼りになります。

役割を果たすことで自信にも繋がりますよね。

Mさん:
家にいる間は彼なりに色々感じていただろうし、家の中に役割があれば居づらくないだろうし、お風呂掃除とか、夕ご飯をお願いしていましたね。何より私は楽できるし、だから彼が仕事行って1番大変になっちゃったのは私(笑) 。
今思い出すと本当長いようで、まあ長かったけど、夫婦で工夫してやっていましたね。
コンパスナビにお願いするときは、とても勇気がいりました。
たくさん葛藤しましたけど、彼の力を信じて、本人が受け取れるタイミングを待ってあげてよかったんだなって思えました。
Hさん:
今は大人として話もできるし、私には結構言いたいことも言ってきます。ただまだ自信がない部分があるみたいで、経験がもう少し積み重なってくれば、ちゃんと生きていけるんじゃないかな。
最後は自立して生きて行ければOKだから、夫婦で見守りたいですね。

娘さんはどうですか?

Mさん:
今高校生で、学校では大人しいタイプだけれど、家ではいろいろな話をしてくれます。3歳で委託になったのですが、本人も辛かったんだろうな、とにかく寝ない、食べない子でした。よくある話ではありますが、でも寝ないにも程があるっていうぐらい、2時間ぐらいするとパッと目が覚めちゃって夜中に覚醒していました。布団も嫌がって掛けられなくて、掛けると全部剥ぐから毛布みたいな洋服を着せたりしました。
食事も小1まで食べさせてあげていました。そうしないと食べなくて、でも幼稚園では自分で食べるんです。食べさせて欲しかったんだろうな。私は一生これでいいやと思ったけど、そのうち子どもの方から「もういい」ってなりました(笑)。
子育ては根比べですよ。
Hさん:
最初は本当に苦労しました。私は最初の1年ぐらいは受け入れてもらえず、妻オンリーでしたから。
3ヶ月目ぐらいからやっと高い高いはできるようになりましたが、遊んでくれる人という認識で、その他のタイミングで触れると怒る。やっぱり寂しかったです。でも焦ってもしょうがないですし、自然の流れに任せるしかなかったですね。

関わり方にとても配慮が必要だったのですね。

Mさん:
外では完全に大人しい子でした。外遊びが活発な泥んこ幼稚園に入れたのですが、そこはみんなパンツを5枚ぐらい持参して、泥だらけになるのが当たり前だったのに、うちの子は3年通ってパンツを洗ったのはたった一回だけ。大きくなってから本人に聞いたら、私は泥遊び嫌いってはっきり言っていました(笑)。それぐらい小さい頃から意思がはっきりしていたので、希望にそぐわないと手がつけられない程怒っちゃうこともありました。
今も言い合うことはあるけど、大人同士として話すことができますからね。

近い距離感だからこそぶつかることってありますよね。
今はどんな生活をされているのでしょうか?

Mさん:
今高2ですが、入学とコロナが重なっていろいろ大変でした。それでも今は
レポートを早々に提出するぐらい頑張っています。
息子と同じように、パパのお店でバイトもしているんですよ。お店が終わってからレジ閉めや伝票書き、お掃除したり帳簿つけもしてくれています。だからパパと仲がいいんです(笑)。ずっとお喋りして楽しそうにやっていますね。私とまた視点が違って良いんじゃないかな。

安心して話ができる相手の存在は大きいですよね

Mさん:
来年また受験となって新しい1歩を踏み出す時に、すごく勇気がいることは本人も分かっていて、そういう話を児相のワーカーさんともしているみたいです。家族以外の大人とそんなことが話せるようになると自分の中でも整理ができるだろうし、良かったなって感じますね。
他にも里親会※で心のサロンっていうのをやっていて、カウンセラーの先生をお招きして相談とか研修をしてもらっているのですが、そこで娘の抱えている生きづらさみたいなものを改めて理解できました。

家族以外の大人のサポートは心強いですね。

Mさん:
里親会はすべての事を受け止めてくれる場所です。遠い親戚の様な、一番の相談相手。欠かせない存在です。児童相談所のサポートもありがたいです。

お子さんを育てられてきた中で大切にしていることはありますか?

Mさん:
こちらが子どものことをよく知ること。本人の特質や強み弱みをよく知って、起きたことに適切に対応していくことかな。知ったからって、この橋を渡らせないようにするのでは無くて、こちらが特質を知っていれば、より良いアドバイスをしてあげられる。疲れたら羽を休めて、少し英気を養って、また外で羽ばたける時を待ってあげる、って思うようにしています。また、子どもの様子には常にアンテナを張って、児相に相談したり、里親仲間に相談したり、あとコンパスナビみたいな外部機関にお願いもします。
自立するってとても大変なことだけど、家庭を体験して社会へ出て、「何かあれば相談ぐらいは帰っておいでよ」っていう関係性の大人が居るだけでも全然違うんじゃないかなって思っています。
あと期待。必要以上の期待は絶対しない(笑)。

夫婦2人だけの生活と、子どもを迎えてからの変化はありましたか?

Mさん:
当たり前ですが、子ども中心の生活になりますよね。それまでは旅行も2人が行きたいところで話は済んでいたけど、子どもが来たら遊園地に行くなど、生活はガラッと変わりました。
パパとの関係性は全然変わらないですね。ガラッと何かが変わるっていうのはなかったです。子どもを本当に自然な形で受け入れられたのかな。

お互いの変化はありましたか?

Mさん:
話をよく聞いてくれるようになったかなぁ。そして、私も伝えるようになりました。それまで愚痴とか悩みをあまり言わなかったけど、子どもの事で色々考えた時に、あった出来事はちゃんと伝えて共有しておくと、自分だけの視点だけじゃなくて、父として、社会としての視点で捉えて話をしてくれる。夫婦で話し合うって当たり前の様な事かもしれないけど、生活が不規則だったから、我が家に夫婦で話し合うという習慣はなかったかもしれない。疲れ切っちゃう前に話を聞いてもらえることで楽になれて、パパにも任せることが出来たので、些細なことの共有も大事。言わなくても分かるだろうじゃなくて、ちょっとしたことも伝える大切さを感じました。
Hさん:
私は、変わらないですね。
どんどん成長していくな、とは感じています。子どものために母として人として。
ストレスにならないように、洗濯物も取り込みます(笑)

ありがとうございます。
これまでを振り返ってみてどんなお気持ちでしょうか。

Hさん:
もちろんやってきて良かったな、って思いますね。
2人きりで生活していたら、こんな生活はしていなかっただろうし、特に60歳を過ぎてから、コミュニティって大事だなって思っています。子どもがいなかったらなかなか感じられない、関わってこられないことも多かったです。
Mさん:
良かった以外ないですね。見えている世界の色が違うかな。大変なこともあるけど、人生をより何倍も楽しめているんじゃないかな。
里親になるきっかけが、アメリカ人のご夫婦がアジアの子を迎えるのが素敵だと思ったからなので、自分たちの子どもができなかったから、うちの子として育てたいからというのとはちょっと違っていて。温かい家庭と温かいごはんと、あと変わらない大人がずっといるだけで子どもの成長って全然違う訳だから、自立していくのに少し手助けができれば良いなあって思っています。

最後に。
里親に興味がある方、関心をお持ちの方にメッセージをお願いします。

Mさん:
いつも同じ大人がずっと一緒に関わっている子どもと、そうでない子どもの成長は全く違います。
我が家の家庭を子どもたちのために提供したら、その子がぐーんと伸びて、社会に自立していくのを、ちょっとお手伝いできればいいなって、そんな気持ちで里親になりました。
あまり肩ひじはらずに、我が家で家族と同じ時を過ごして、同じ悩みを乗り越えながら、自分たちの人生だけじゃない、子どもたちの人生に関わって、子どもを迎えることでより深い人生に私はなれたので、目指すのであれば、子どものために力を貸してくれませんか。
頑張っている子どもたちに手を差し伸べてくれる、たくさんの支援の手が繋がればいいなぁって思っています。
子どもは家族、親戚、友達、里親会、施設、児相、みんなに手伝ってもらってチーム一緒に考えて養育していきましょう。
※コンパスナビ … 
一般社団法人コンパスナビ。
児童養護施設や里親さん等のもとを巣立った若者への就労支援(要件により運転免許取得助成)、住居支援、また施設等入所中の子どもたちの自立支援を行っている。
※里親会    … 
レクリエーションや研修、サロンのほか、里親さん同士の支援サポートなど幅広く活動している。

他にもこんな記事があります

入門講座は
こちら

学校黒

学校黒色

さいたまっち・コバトン

TOPに戻る