出会えたからできる経験がある
当時1歳9か月だったH君を迎え入れたNさんご夫婦は、はじめての子育てに戸惑いながらも現在奮闘中!「日常のちょっとしたことが楽しい」と話すご夫婦に、現在小学校1年生に成長したH君との暮らしを振り返っていただきました。
プロフィール
Nさんご夫婦 … 2015年、埼玉県の養子縁組・養育里親に登録。
Mさん … 会社員。大のジャイアンツファンで、お笑いと旅行好き。
Aさん … 専業主婦として子育中。趣味は散歩。
Hくん … 創作することが得意。最近は写し絵にはまっていて、親子でやることも。
コロナ禍の近年は、天気の良い休日にドライブすることが、家族の楽しみ。
悩むことも幸せ
―最初に里親登録のきっかけを教えていただけますか?
- Mさん:
- とにかく子どもが欲しいという気持ちが強かったです。3年間の不妊治療を経て、結果的にうまくいきませんでした。夫婦2人ともどうしたらよいか、しばらく落ち込んでいました。今振り返ると、どうやったら親になれるチャンスがあるのだろうかと方法を探していた記憶があります。
- Aさん:
- その後 里親入門講座があることを知り、参加したことがきっかけで養育里親という制度を知りました。自分たちでできることがあるならやってみようと思ったことがきっかけです。
―その後委託までの流れは?
- Mさん:
- 研修の時に先輩里親さんの話を聞いて、大変そうではあるが子どもがきたら楽しいだろうなというイメージが強かったですね。ただ実際の委託までは待つという話を度々聞いていたので、きっと登録後もしばらく待つのだろうな、待つのが当たり前なのだろうな、とゆったり構えていました。
- Aさん:
- それがうちは登録して3か月ぐらいで委託のお話があって、とにかくびっくりしたのですが、縁があるのかな、とお受けしました。
- Mさん:
- その後、交流が始まったのですが、これが本当に大変でしたね。
子どもが生活している施設に半年間毎週通いました。ただ、ある日急に施設に入って「はい、この人がHくんのパパだよ」って言って紹介されても、全く関係はできていませんし、警戒もされてしまうし、なので最初はひとり玩具でずっと遊んでました。
もうそれが辛くて…。
ただ自分としてはこちらから追いかけることはせず、また、まず母親と仲良くなってもらってからそこに自分が入っていくという作戦を周りの人に教えてもらっていたので、焦らないよう自分に言い聞かせていました。
―交流中、何か変化はありましたか?
- Mさん:
- 最初の印象としては繊細そうな、相性的には難しいのかなと感じてしまいましたが、いざ交流が始まってみると全くそんなことはありませんでした。本人の様子を慎重に見ながら適度な距離感でやり取りをしていくところからスタートしたことで、安心感を持ってもらえたのは良かったなと思います。
- Aさん:
- とは言え、自分も最初はどうしてよいか戸惑うこともありました。一緒に過ごしているときはあまり笑ってくれず、楽しいかどうか分からない。でも、子ども同士で遊んでいる姿をみるとニコニコ笑っていて、その姿をみると切なくなりました。
- Mさん:
- 近くにいた職員さんが去ろうとすると「行かないでー」って泣くんですよ。
その時は悲しかったなぁ。
- Aさん:
- その後自宅に外泊をして、次は長期の外泊になる予定だったときは更に不安と心配があったのですが、その時の乳児院の保育士さんから「外泊をしたら本人の様子落ち着きましたね」って言ってもらって、その言葉を聞いたときに「あぁ、もう家にきてもらっても大丈夫なのかな」って少しほっとしたのを覚えています。
―その後一緒に生活をしてみてどうでしたか?
- Aさん:
- 最初は、とにかく毎日が不安でした。当たり前ですけど、施設での食事から自分の手作りの食事になる。口に合うかな、とか気にしたり。
スムーズにいくと思っていたことが出来なくて、これも大変でした。
最初の1年はパパが帰ってくると、今日も無事1日が終わるなぁ、とホッとしてましたね。児相さんも訪問に来てサポートしてくれていて、助かりました。
- Mさん:
- 最初の頃は、夜泣きもよくしていたよね。ご飯もなかなか食べなくて…。
日中自分が居ないなか、本当に妻が頑張ってくれていました。
会社に居ても気になって落ち着かないんですが、日中は何もできないんですよね。
だから、じゃあ自分には何ができるんだろうって考えましたよね。とにかく2人の様子を見て、フォローしていくことに徹しました。
- Aさん:
- だんだんと生活にも慣れてきて、Hくんもよく笑うようになりました。いつぐらいだろう…幼稚園前には気づいたら、そのぐらい自然な変化でした。よく話をしてくれる子で、身体を動かすのが好きな元気いっぱいの男の子。外に出ると自分から挨拶をしています。幼稚園に通うようになったとき、少しほっとする気持ちになるのかなと思ったら、行ってらっしゃいって送り出すのが寂しくて。それぐらいずっと一緒に生活していたんだと感じました。最近幼稚園の先生からのお便りに「鉄棒の時の表情が忘れられません」って書いてあって、どんな表情だったんだろう?!見たかったなぁ。こうやってだんだん自分の知らないことが増えていくんだな、と寂しいような、成長が嬉しいような気持ちです。
―大変だったことはありますか?
- Aさん:
- 子育ては楽しいというイメージが先行していて、周りから「自分の時間は無くなるよ」と言われていたのですが、具体的に分かっていませんでした。いざ実際に子育てが始まると、子どもが寝るまではずっと子どものペースで、自分が想像していたよりも遥かに大変でした。
子どもがくるまではスーパーで怒っているお母さんを見て、あんなに怒らなくても良いのにって思っていたけど、いざ自分が子どもを連れてスーパーに行くと「触らないでね!」って厳しい顔になってしまって…。ダメですね(笑)
とにかく、「こんなにも子どものペースの生活なんだ」って実感しました。
- Mさん:
- いつも思うのは、里子だからそうなのか、普通の家庭の子もそうなのか。
最初の頃は気を使っていて、ダメなものをダメと叱ったりすることができませんでした。だんだんと関係ができてきて、今は安心してダメだよと伝えられるようになり、信頼関係が出来てきたなと感じます。
そうは言っても昨日も病院の待合室で全然座っていられなくて、親は注意しなきゃいけないけど、本人はどこまでやったら怒られるか試しているんですよね。注意すればするほど反発するし、でも言わない訳にもいかなし、いつもどうしたらいいものか、と悩んでいますね。でも子どものことで悩めるって幸せなんですよね。大変ですけど(笑)
―光景が浮かんできます。
そんな時はどうされているのでしょうか?
- Mさん:
- 先輩里親さんに相談すると「大丈夫、大丈夫」って笑いながら言ってもらえて、それが本当に心強く感じています。例えば片付けが出来なくてそれを相談した時も「大丈夫、大丈夫。子どもはまだ片付けなんて出来っこないよ」って、言って欲しい一言を言ってもらえる。
どうしても片付けさせようとするとイライラしてしまうけど、先輩里親さんから一言もらえるだけで安心できますし、いい意味であきらめることも必要なのかなって思えました。
- Aさん:
- 先輩里親さんはもちろん、児相さんの委託サポートや一緒のグループの方の存在も心強かったです。あとは自分の兄弟にも聞いてみたりしました。
―身近に相談できるサポートがあることは心強いですね。
お互いの新たな一面を知った
―お子さんと暮らし始めて、何か変化はありましたか?
- Aさん:
- どんなに小さくてもひとりの人なんだと時間をかけて実感しています。
最初はそこまで深く考えていなかったのですが、何年か経ってみて人ひとりの人生に関わっていることに責任というか、大変な重みというか、とても大切なことだと改めて感じています。
- Mさん:
- 責任のあることだからちゃんとしなきゃいけない、ちゃんとした人に育てなきゃいけないってどこか強く思い込んでいて、もちろんそうなのですが、思い込みすぎても上手くいかない。厳しくすれば良い訳でもない、本当に難しくて今渦中です。
果たしてこの方法でいいのかな、っていうのは常にありますし、何がこの子のためなのかを日々考えるようになりました。
―お互いの変化はありましたか?
- Mさん:
- こんなに意見が違うとは思いませんでした(笑)
夫婦2人の時は、当たり前ですけど自分と相手との関係だけで同じ意見が多かった。でも子どものことになると育て方や考え方がこんなにも違う。これは子どもを迎えてみないと分からないことでしたね。
あと、いざという時にとても頼りになって、知らない一面にびっくりしました。
心強いですね。
- Aさん:
- 子どものことで考え方の違いから喧嘩するようになりましたね(笑)
最終的には奥さんの意見を、と言ってくれるけど、譲らないところもあります。
―考え方や、意見の食い違いなど乗り越え方は?
- Mさん:
- 正解がある訳ではないから、答えは見つからない。でも方法は探さなきゃいけない。その都度、夫婦で良く話し合って、この子のためにどうしたら良いかを一緒に考える。夫婦は元々違う環境で育って、違う考え方、違う叱り方、夫婦であってもそれぞれが違う。それを理解した上で、夫婦で良く話し合うようにしています。
そして最後には妻の意見を尊重するのは鉄則です。
- Aさん、Mさん:
- (笑)
―もしも過去の自分に声を掛けられるとしたら、どんな事を伝えたいですか?
- Aさん:
- 「そんなに頑張らなくても大丈夫、怒るよりも笑ってね。」でしょうか。
今考えると、自分の想い通りになかなかできなくて、辛い顔をしていたと思います。
だから大丈夫、って伝えたい。
大変だったから今があるな、と感じます。
- Mさん:
- 私は「そんなに落ち込まなくてもいいよ。一生懸命頑張っていれば、必ず報われるから大丈夫だよ。」かな。いやー、本当に交流期間から大変だったのですが、「パパお帰り」って言ってくれるようになったとき、これが幸せなんだなって感じました。