里親も普通の親と変わらない
現在1歳8か月のK君を養育されているIさんご夫婦。K君は早産で生まれていたため最初は心配事も多かったと話すIさんご夫婦ですが、同席してくれたK君はそんなことを微塵も感じさせないぐらい元気いっぱいに私たちを迎えてくれました。
まだ暑い日だったこの日、扇風機の風を嬉しそうに浴びて可愛らしく笑うK君の姿がとても印象に残ります。
どのような経緯で里親となりK君を迎えたのか、またK君との生活の様子を伺いました。
本日はよろしくお願いします。
早速ですがK君は風が大好きなのですね。
- 妻:
- そうなんです(笑)公園とかでも風が吹くと喜ぶのですが、台風とか風の強い日に外で風の音がすると外に出たがってしまって…。「玄関だけね」って言って抱っこで外に出ると、風が勢いよくバーッと来るのを浴びて喜んじゃって、そのまま「降ろして―」って言うんです。さすがにそれはできないですけど、こんなに小さいのに好きなものがはっきりしていますね。
- 夫:
- 本を読むのもすごい好きなんですけどたまたま通販のカタログを見て、そこに載っている扇風機とかサーキュレーターを指さして「ん!ん!ん!」って言うんです。分かっているんですよね。とてもびっくりしました。
この先が楽しみですね。
- 夫婦:
- はい(笑)
そんなK君のご両親ですが、どのようなきっかけで里親になられたのでしょうか。
- 夫:
- うちは子供に恵まれなかったっていうのがあって、不妊治療をずっとしていました。そこが最初のきっかけになりますね。不妊治療がなかなか上手くいかなくて、それでも子育てがしたい、子どもを育てたいって気持ちがすごく大きくなっていました。その時に、もし実子を授かれなかったらどうしようって色々調べる中で、この里親制度に辿り着きました。
そこからはどういった流れでしたでしょうか。
- 夫:
- 調べていくと埼玉県が入門講座を結構頻繁にやっていることを知り、そこに夫婦で参加したのが最初です。 入門講座に参加してみたら結構色んな方が参加されていて、自分たち以外にもこんなに関心を持っている人がいるんだなって思いました。参加している他の方の話なども聞くことができて理由は様々、うちみたいな家庭だけじゃないんだというのも知りました。
入門講座で実際に里親さんのお話も聞くことができたのですね。
- 夫:
- はい。実際体験されている方のお話を聞くこともできて良かったです。参加する前から里親になりたいという気持ちは固まっていましたが、そこで「ああ、これはすぐやってみよう」と思って、児童相談所に電話をしました。
登録までどのくらいの期間でしたか。
- 夫:
- うちは登録までは1年ぐらいかな。
- 妻:
- そうだったね。2人で予定を調整しながら研修にも参加しました。
- 夫:
- ただ登録してそこからが…。ちょうどその頃から新型コロナの流行が始まってしまって感染症対策で施設との交流も難しくなり、ずっと話が止まっていたような感覚で、自分たちに話は来るのかと不安はすごくありましたね。
待っている間、どんなお気持ちでしたでしょうか。
- 夫:
- 我々としては特別養子縁組希望ではあったんですけれども、そこにこだわらず委託の期間が短期であっても話が来たら受けようと、妻と相談していました。研修とかイベントもあれば積極的に参加したかったのですが、やっぱりコロナでその機会も無くて。
ただ待つだけではなく、色々相談されたのですね。
- 夫:
- そうなんです。それから1年半ぐらいして児童相談所から連絡をいただき、実際に交流が始まりました。交流はファミリーホームに通うところから始まって、専門的な事なども含めて色々教えていただきました。
- 妻:
- 施設の先生が色々配慮して下さり、早い頻度で交流するプランを立てていただきました。
実際に交流が始まってみていかがでしたか。
- 妻:
- まず行く前は「今日会える!」っていう嬉しさと楽しさと、それと緊張でいっぱいでした。ちゃんとできなかったら、泣かれちゃったら、どうしようっていう不安もありました。平日は私ひとりで行くこともあったので、その日は帰ってからちゃんと主人に伝えなくちゃという気持ちで、振り返ると色々充実していましたね。
- 夫:
- 実際の赤ちゃんを模したぬいぐるみを貸していただいて、ちゃんと赤ちゃんの重さになっているので、その子をお風呂に入れたり、おむつを替えたりと練習もしました。 慣れないことばかりでしたけど、楽しい、嬉しい気持ちのほうが多かったです。
交流期間を経ていよいよK君と一緒の生活が始まったわけですね。
- 夫:
- 待ちに待ったスタートですね。いや、もう嬉しくて楽しい!毎日ワクワクで楽しいに尽きました。
- 妻:
- 私も「やっと一緒に生活できるー!」って思いでした(笑)
- 夫:
- 一緒に生活をする前は「なんとなくこんな感じかな」ぐらいのイメージしかなかったのですが、実際一緒に暮らしだすともちろん毎日が大変。楽しいだけじゃない時もあるんですけど、それでもすごく毎日充実しています。何より毎日この子のできることがどんどん増えていきますし、それを近くで感じられるのは嬉しいですね。
実際の生活で大変だったことはありますか。
- 妻:
- 直接この子についてではないのですが、自分が想像した以上に自分の身動きが取れなくなるんだなって実感しました。先輩里親さんから話は聞いていたんですけど、想像してた以上でしたね。困るというか、それを一番感じたのは病院に行けなくなったことです。私が鼻風邪を引いてしまった時に、病院を受診して早めに治したいと思ったんですけど、子ども連れで来院されても診られませんって言われてしまって。うちは主人の実家が隣にあるので、何かがあるときはお願いできるのですが、子育ては周りの協力が得られないと大変だなって思いました。
- 夫:
- 本当にそれは感じたね。そんな中でも周りの人たちが優しいなっていうのは改めて感じました。色んな人がニコニコして何かあれば手伝ってくれるし、世の中まだ捨てたもんじゃないなぁって感じましたよ。
生活も変わりますよね。
しっかりサポート(※1)も利用されたとお聞きしました。
- 妻:
- はい。これはとても助かりました。里親に登録してから、未委託時・交流中・委託直後と段階的に支援サポートがあるのですが、そこで先輩里親さんから話を聞いたり、こちらから質問を投げかけたりすることができたのでとても心強かったです。
自分たちなりに想像していた子育ですが具体的に話を聞けることで、「こういうことがあるのか」、「ああいったこともあるのか」と事前に知って考えることができました。 予め知っておくことで、どうしたらよいか夫婦で相談することもできたのが良かったです。
私たちは初めての子育てで分からないことも多かったのですが、委託直後のサポートで先輩里親さんから話を聞けたり、子どもの特性を踏まえた上で相談することもできて勉強になりましたし、大変助かりました。
コロナ禍で外に出られない、人と話すことができない、といったこともあり、このサポートがあったおかげで大人同士のコミュニケーションの機会も持てて、とても支えになって楽しい時間でした。振り返ってみてもほとんど孤独を感じることなく、自分自身の気持ちが安定して子育てすることができたと思います。
サポートが身近にあるのは心強いですね。
子育てを通してご夫婦お互いの変化は何かありましたか。
- 妻:
- つい笑ってしまうんですけど、この人ってこんなにデレるんだって(笑)子どもの前でこんなに笑顔になるんだなって知りました。夫は元々一人暮らしをしていたので、料理にしても掃除にしてもやってくれていたんですけど、どうしても私の手が離せない時なんかも率先してやってくれてたりとか、この子の面倒も見てくれているので、ここまで子煩悩になる人だとはビックリでしたね。色々とやってくれるので頭が上がりません。
- 夫:
- そうかな(笑)
新たな一面の発見ですね。
K君はどんなお子さんでしょうか?。
- 夫:
- 風が大好きな子なのでもう少し大きくなったら、私も好きなアウトドアに一緒に行けるようになるのが楽しみですね。
- 妻:
- あんなに風を浴びたがって大胆かと思えば、とても慎重な面もあって。脱衣所で着替えているときなんかにちょっと滑って転んだりすると、次から転んだ所はゆっくり歩いて移動するんです。一度失敗したことはすごく慎重になるし、他にも「これで遊ぶ!」って意志の強いところとか、負けず嫌いなところとかもあります。遊んだ玩具を片付けてくれるとかもそうですし、おしっこ出たら「出た」って自分でおむつを指して教えてくます。
まだ小さいのにすごいですね。
- 妻:
- 心配がないわけではありませんが、こちらもあまり神経質にならずに、危ないからと言って行動を止めるのではなくて、のびのびとありのまま、「まぁ、何とかなるでしょ」って感じですね。自分で学んで慎重にもなれるし、全部この子の素質なんだなって思っています。
最初からそうだったのでしょうか。
- 妻:
- いえいえ、お預かりしたばかりの頃なんかは、「しっかり育てなくちゃいけないんだ」って思って、そのことでいっぱいいっぱいになってしまっていました。自分の中でグルグル考えていた時もありましたけど、自分に余裕が無くなり過ぎても、きっとこの子にとっても良くないだろうし、この子の素質を受け止めて、信じて、これが全部この子のもっているものなんだなってだんだん思えるようになりました。
まだまだ成長が楽しみですね。
最後に、里親を検討されている方へメッセージをお願いします。
- 夫:
- もし迷われたり悩まれているのでしたら、是非一歩踏み出してみてもらえると里親という制度がどのようなものか、より分かると思います。入門講座に参加すると里親制度についていろんなことがわかりますし、里親に対する理解も深まります。また社会的養護の必要な子どもたちについても理解することができると思います。
まずは知って下さい。
実際自分たちも、社会的養護が必要な子どもたちがこんなにたくさんいるんだってことは、入門講座や研修に参加してみて詳しく知りましたし、そういう事を学ぶだけで視野が広がりました。
様々な理由があって実親と暮らすことができない子どもたちも、この制度があれば普通の家庭で暮らすことができますし、自分たちのように子育てを望む家庭も幸せになれます。何よりも子どもたちを幸せにできるので、そう意味でもこの制度をもっと広く知ってほしいなと思います。
実際私は里親になってみて多くの楽しいことに出会いました。
- 妻:
- 正直、まだ目の前のことに精いっぱいで何も言えないのですが、すっごい考えて思ったことが1つあって…。 里親も普通の母親と同じなんだなって。これはお伝え出来たらなって思いました。
里親だからこそ「きっちりちゃんと育てなきゃいけないな」とか「この子を幸せにしなきゃいけないな」とか、最初の頃はそんなことばかり考えていたんですけど、結局振り返って考えてみると、行きついてる場所ってこの子の健やかな成長と幸せなんです。多分普通の家庭の、子どもを出産されて子育てされてるお母さんたちとも一緒で、そのためにはどうしたら良いんだろうと、やってることも悩んでることも同じなんだろうなって思います。
なので里親になること、一歩踏み出すことに勇気のない方がもしいらっしゃったら、里親だから特別というのではなくて、里親も同じ母親であるだけだよって、普通の家庭と多分変わらないよってお伝えしたいです。
もちろん子育てって大変なことも多いですし、楽しい事ばっかりじゃないですけど、それを上回る幸せだったり楽しさというものを、私は知りました。
子どもの健康と幸せを願って考えることやっていることは普通の家庭と同じです。
是非、一歩踏み出してお話しきいてみませんか?
※1 しっかりサポート … 委託予定の子どもと交流中や、新しく子どもを迎えた方など、里親が孤独にならないように先輩里親が行うサポート。未委託スキルアップ支援・面会交流中支援・委託直後支援・里親サロンなどがある。
(埼玉県里親会HPより https://saitama-satooyakai.jp/support.html )